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K-ABCⅡの結果の見方と支援の手立て4選

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先日、「WISC-Ⅳ」という知能検査の結果の見方と支援について記事にしましたが、今回は、WISC-Ⅳと並んでよく使われている「K-ABCⅡ」(K-ABC2)という知能検査について取り上げます。

参考:IQって何?WISC-Ⅳの結果の見方と支援の手立て4選

 

K-ABCⅡとは、カウフマン式知能検査のことで、WISC-Ⅳと並んで広く利用されています。
2歳6か月~18歳11か月まで、幅広い年齢に実施できることが特徴です。

 

また、K-ABCⅡの特徴として、教育的な働きかけに直結するということが挙げられます。
WISC-Ⅳの検査では、数値が分かってもそこからどう具体的な支援につなげていけばよいのかが難しいという声がありました。

 

しかし、K-ABCⅡの検査では、漢字や文章作成などの書き課題や算数課題などが取り入れられているので、検査結果そのものが学習の見立てや支援に生かすことができます。
より、教育現場に近いところを意識した検査となっています。

 

K-ABCⅡの結果の見方と活用方法や、WISC-Ⅳとの違いについて知り、それぞれの検査結果を支援とつなげられるようにしましょう。

 

どちらにも良いところはありますので、それぞれの特徴を押さえておくことが大切です。

 

目次

K-ABCⅡの構成要素

まずは、K-ABCⅡを構成する要素について知り、全体の構成を把握しましょう。

K-ABCⅡは「認知尺度」「習得尺度」という大きな二つの尺度に分かれます。
その中で更にそれぞれが4つの下位尺度に分かれる構成になっています。

 

全体の構成を図にすると、以下のような図になります。

 

 

認知総合尺度

WISC-Ⅳの知能(FSIQ)に相当する部分が、この「認知総合尺度」になり、4つの下位尺度で構成されています。

 

継次尺度

情報を一つずつ時間的、系列的に処理する能力を測定する尺度です。
カーナビで例えると、ルートを順番に指示する音声案内のイメージです。
この尺度が高いと、聴覚処理の能力が高い傾向にあります。

 

同時尺度

一度に複数の情報を統合し、全体的なまとまりとして処理する能力を測定する尺度です。
カーナビで例えると、全体の案内図を俯瞰する地図情報のイメージです。
この尺度が高いと、視覚処理の能力が高い傾向にあります。

 

計画尺度

高次の意思決定に関する実行過程を測定する尺度です。
継次処理と同時処理の課題の実行に関与しています。

継次・同時・計画の情報処理は、以下のような流れで行われます。

(例:英文の翻訳)

①英文を読む。
②「計画」機能が働き、訳すことを命じる。
③「継次」が働く場合⇒イディオムや単語ごとに訳していく。
④「同時」が働く場合⇒全体の構文を捉え、大体の意味をつかみ取る。

 

このイメージをもっておくことで、より強い尺度を生かした方が学習効率が高まることを実感できるようになります。

 

学習尺度

新しいことを学習し、それを保持する能力を測定する尺度です。
学習の定着度を知ることができます。
学習したことを後から再生することで、長期記憶を知ることもできます。

 

習得総合尺度

今までの学習の積み重ね(基礎学力)を調べることができる尺度です。
認知総合尺度同様、4つの下位尺度で構成されています。

 

語彙尺度

理解語彙を調べることができます。
理解語彙とは、語彙をどれだけ分かっているかという検査です。

 

読み尺度

ひらがな、かたかな、漢字、文章の「読み」の能力について測定することができる尺度です。

 

書き尺度

ひらがな、かたかな、漢字、文章の「書き」の能力について測定することができる尺度です。

 

算数尺度

計算(ひっ算)、数的推論の能力について測定することができる尺度です。

 

K-ABCⅡの結果の読み取り

ここからは、K-ABCⅡの結果をどのように読み取っていけばよいのかを見ていきます。

 

標準得点

結果として見る数値になります。
100を平均として、その上下のばらつきを見ることで、発達水準を推定することができるようになります。

 

認知総合尺度と習得総合尺度の比較

認知総合尺度>習得総合尺度の場合

認知総合尺度の得点と習得総合尺度の得点を比較したときに、認知総合尺度の得点が高い場合数や言語に関する知識・技能の獲得に際して、認知能力を十分に生かしきれていないと読み取ることができます。

 

このような場合、子供の認知能力を発揮できるように、学習への意欲・興味、学習習慣、教室や家庭の環境調整などを行い、環境面で子供のやる気を高めていけるような支援を計画していく必要があります。

 

認知総合尺度<習得総合尺度の場合

認知能力を十分に生かして数や言語に関する知識・技能を獲得していると解釈することができます。

ですが、認知総合尺度と習得総合尺度の数値がかけ離れている場合(認知が80で習得が100など)、学習における負担が高すぎないか、丁寧に見取ることが必要です。

 

理由は、本来もっていると推測される認知尺度以上に勉強を頑張って今の水準にいる可能性があるので、本人にとっては、「無理して頑張ってついていっている」状態に陥っている恐れがあるためです。

 

認知総合尺度と習得4尺度の比較

続いて、認知総合尺度と、習得4尺度(下位尺度)の比較から結果の読み取りを行います。

 

  • 認知総合尺度>語彙尺度の場合
    「話す・聞く」という領域の習得が低い可能性があります。

 

  • 認知総合尺度>読み尺度の場合
    読字障害、または「読み」の習得が低い可能性があります。

 

  • 認知総合尺度>書き尺度の場合
    書字障害、または「書き」の習得が低い可能性があります。

 

  • 認知総合尺度>算数尺度
    算数障害、または「計算する」「推論する」の習得が低い可能性があります。

 

K-ABCⅡの結果から考えられる支援の手立て

支援の視点

K-ABCⅡの結果の読み取りと、支援の計画は以下のような流れで行います。

 

  • 認知総合尺度(知能)と習得総合尺度(基礎学力)の比較をして、強みと弱みを読み取る。
  • 指導方針は、「継次」(聴覚優位)か「同時」(視覚優位)の強い方を生かした長所活用型が基本。
  • 「計画」「学習」の能力については、数値が低い(弱い)場合にその能力に合った支援方法を取り入れていくことが必要。

 

同時優位型

同時の能力が高い同時優位型の場合、以下のようなポイントを押さえた指導が効果的です。

 

  • 全体を踏まえた教え方をする。
  • 全体から部分へ焦点化していく。
  • 視覚的手がかりを重視する。
  • 空間的手がかりを重視する。

 

漢字の指導を例に挙げると、へんとつくりにわけて、パズルのように組み合わせて漢字を作る指導が有効です。

 

継次優位型

続いて、継次の能力が高い継次優位型の指導の場合についてです。

 

  • 段階的な教え方をする。
  • 部分から全体へ広げていく。
  • 聴覚的手がかりを重視する。
  • 言語的手がかりを重視する。

 

漢字の指導に例えると、語呂合わせのように、順番に線を書いていくと漢字ができ上がるような指導が有効です。(立つ日の心、注「意」して、など)

 

ちなみに、漢字の指導については、過去記事で詳しく書いていますので、よかったら参考にしてみてください。
(参考:漢字学習の新定番!子供の得意に合わせた学習方法2選!)

 

また、これらの長所を生かした支援については、下記の本が非常に参考になります。
支援が進んでいる学校では積極的に取り入れられているものもあり、家庭でもできる支援が多く紹介されています。

ぜひご覧になって、できるところから始めてみることをおすすめします。

 

「計画」能力が弱い場合の支援について

計画尺度が低い場合には、以下のような支援を行うことで、学習に取り組みやすくなります。

 

  • これから取り組む課題について、事前に説明するなどして、活動に対する全体的なイメージをもたせる
    ⇒ホワイトボードに予定ややることを視覚化するなどの手立てが有効

 

  • より具体的・体験的な課題を通して学習する。(抽象的な課題は理解しにくい)

 

  • 作業をスモールステップ化し、その順序について確認をする。
    (例)家で寝る支度をする場合
    →「寝る支度をしなさい」では計画ができない。
    ⇒①お風呂②歯磨き③明日の準備、というように段階的に取り組むことを明確にする。

 

  • 作業の途中で進捗を確認できるようにする。

 

「学習」能力が弱い場合の支援について

学習尺度が低い場合には、以下のような支援を行うことで、学習の効果が高まります。

 

  • 復習の時間を多く確保する。
    ⇒授業の最初や、宿題に取り組み始める前に、今までの学習を振り返っておくと、その後の学習に取り組みやすくなります。

 

  • 手がかりやヒントを与えて、学習した内容を思い出しやすいようにする。

 

  • 記憶するべき内容については、言いかえを行ったり、他の事柄と関連付けて理解させたりして、記憶の網を張り巡らせる作業を行う。

 

  • 反復学習はあまり効果が期待できないので、関連付けや意味付けを行いながら、短期記憶⇒長期記憶への定着を目指す。
    ⇒(例)漢字を覚える時には、ただひたすら書いて覚えるのではなく、クイズにしたり、実際にその漢字を使った文章を作ってみたり、日常生活でその漢字を探したりするなど、複数の事柄と関連付けることが大切。

 

 

WISC-Ⅳとの違い

ここまでは、K-ABCⅡの概要と結果の見方について説明してきました。
ここからは、同じく代表的な知能検査であるWISC-Ⅳとの違いを見てみましょう。

(表中のK-ABCⅡとWISC-Ⅳの表記が逆になっていたので訂正しました。申し訳ありませんでした。また、ご指摘いただいた皆様、ありがとうございました。)

 

  WISC-Ⅳ K-ABCⅡ
検査方法 1種類 認知検査+習得検査
長期記憶の検査 なし 学習尺度
処理速度の検査 処理速度(PSI) なし
認知能力の検査 FSIQ+各項目 認知尺度
基礎学力の検査 なし 習得尺度
視覚優位の判断 言語(VCI),知覚推理(PRI)が高い 同時尺度が高い
聴覚優位の判断 ワーキングメモリー(WMI),処理速度(PSI)が高い 継次尺度が高い

 

上記の表から、それぞれにしかないもの、両方に共通するものが見えてきます。

まず、大きな違いとして、WISC-Ⅳには基礎学力を図る検査項目はありません。
それは、そもそも医療用として用いられてきた背景があるからです。

 

対して、K-ABCⅡには、習得尺度という基礎学力を図るための尺度があります。
これにより、学習がどれだけ定着しているかを知ることができます。

 

ちなみに、K-ABCⅡの認知検査と習得検査は別々に実施することが可能ですので、すでにWISC-Ⅳの検査を実施している場合、追加でK-ABCⅡの習得検査を行い、基礎学力について検査することも可能です。

 

また、WISC-Ⅳには長期記憶を測定するための検査がなく、K-ABCⅡには処理速度を測定するための検査がありません。

この点については、WISC-ⅣとK-ABCⅡを併用することで、お互いに足りない部分を補い合うことができます。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

 

K-ABCⅡの検査は、教育を意識して作られているため、WISC-Ⅳよりも学習と結び付けて考えやすい特徴があります。

 

K-ABCⅡとWISC-Ⅳそれぞれにメリットがありますので、どちらの検査を行うのがいいのか、目の前の子供の様子を見ながら、医師や教員と相談していくことが必要になってきます。

 

ちなみに、WISC-ⅣとK-ABCⅡを併用することで、上述したようなお互いに補完し合う検査結果を得ることができますが、たくさん検査を受けることは子供にとっても負担となります。

 

日程や体調を見ながら、無理なく進められるように各家庭で工夫することが大切でしょう。

 

ぜひ、検査結果を生かして、子供が楽しく学習に取り組んだり、学校へ通えるようになったりすることを願っています。

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