
平成26年度に行われた調査において、小中学校における不登校児童生徒数は122,897人(小学校:25,864人、中学校:97,033人)であると発表されました。
国や地方自治体は不登校改善のために今まで様々な施策を講じてきましたが、依然としてその数は減少することはなく、むしろ平成25・26年度と2年連続で増加の一途をたどっています。
不登校の子供を救うためには一体どうすればいいのでしょうか?
不登校の現状と課題、そして不登校の子供に接する親・教師の手立てについて考えていきたいと思います。
目次
不登校の実態
不登校の定義
まず初めに、これから論じていくにあたり、不登校の定義について確認しておきましょう。
文科省の問題行動等調査において、「不登校」とは連続又は断続して年間30日以上欠席し、
「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況にあること(ただし、病気や経済的な理由によるものを除く)をいう。」(学校不適応対策調査研究協力者会議(平成4年)
と定義されています。
不登校は、不登校になってしまった子供が特別なのではなく、どの子供でも、いつでも起こり得るものだと認識しておく必要があります。
また、不登校は一人一人によってその要因や背景が多様であり、本人が様々な困り感を抱えた結果として不登校状態になっているということを理解しなくてはなりません。
不登校とは「問題行動」ではなく、「行きたくても行けない」状態であり、現状に苦しむ子供たちとその家族に対して寄り添って対応していくことが不登校の子供たちの心を支えるためには重要なのです。
不登校の現状
続いて、不登校の現状について確認していきましょう。
以下は、これまでの文科省の調査によって明らかになった、小中学校の不登校児童生徒数の推移をグラフにしたものです。
(不登校児童生徒への支援に対する最終報告 別添資料より引用)
早急な対応が懸念されているのは、ここ2年間の不登校児童生徒数が増加しているためです。
その割合は小学校で255人に1人、中学校で36人に1人。
これは、小学校なら学校に1~3人、中学校なら1クラスに1人程度の不登校児童生徒がいるということになります。
最新である平成26年度の調査では、小学校で25,864人、中学校で97,033人の不登校児童生徒がいるという結果が報告されました。
どちらも過去最多に迫る数字であり、憂慮すべき事態であることに間違いはありません。
不登校のきっかけ
続いて、不登校のきっかけについても見ていきましょう。
不登校は誰でも、いつでも起こり得るものと前述しましたが、本当にきっかけは人それぞれです。
些細な事から始まって不登校になってしまう子供もいれば、重大な事案で学校に行けなくなってしまった子供もいます。
今回の調査で小中学校それぞれの、「不登校になったきっかけと考えられる状況」の上位3つと割合は以下の通りです。
<小学校>
理由 | 割合 |
不安など情緒的混乱 | 36.1% |
無気力 | 23.0% |
親子関係をめぐる問題 | 19.1% |
<中学校>
理由 | 割合 |
不安など情緒的混乱 | 28.1% |
無気力 | 26.7% |
いじめを除く友人関係をめぐる問題 | 15.4% |
(参考:同上)
どちらも1位・2位は同じで、「不安など情緒的混乱」と「無気力」となっています。
そして、3位は小学校が「親子関係をめぐる問題」、中学校が「いじめを除く友人関係をめぐる問題」となっています。
1位に挙がっている「不安など情緒的混乱」についてですが、これは誰でももっている小さな不安が少しずつ増大し、自分で制御できなくなった結果だと考えられます。
常日頃から、子供の不安のサインに敏感になり、周囲の大人があたたかい目で見守ることが大切だといえます。
不登校の背景
不登校には、友人関係、家庭内の問題、教師との軋轢など、様々な背景があります。
ここでは、平成18年度の調査資料より、「不登校のきっかけ」と「不登校の継続理由」の相関について確認し、その背景について考えていきたいと思います。
上記の資料等から読み取れることとして、代表的な継続理由ときっかけの関連をまとめると、以下のようになります。
不登校の継続理由 | 不登校のきっかけ |
無気力でなんとなく学校へ行かなかったため | ・勉強が分からない
・生活のリズムの乱れ ・インターネットやメール、ゲームの影響 |
遊ぶためや非行グループに入っていたため | ・学校やきまりなどの問題
・生活リズムの乱れ |
いやがらせやいじめをする生徒の存在や、友人との人間関係のため | ・友人との関係
・クラブや部活動の友人・先輩との関係 |
このことから、子供たちのためにどのような支援をしてあげればよいのかが少しずつ見えてきます。
何よりも、まずは不登校を未然に防ぐために、日頃の生活習慣を整えること、周囲の大人が子供に寄り添い、悩みを話せる環境づくりをすることが大切であるということが分かりますね。
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不登校の児童生徒への支援
支援の視点
不登校の現状と実態について押さえたところで、次は支援について考えていきましょう。
不登校の支援において忘れてはならないことは、「学校に登校させることだけがゴールではない」という考え方です。
実際、目の前の不登校状態を改善させるためだけに、無理やり学校へ登校させようとする支援の仕方では、あまりいい結果につながっていません。
大切なことは、将来的に子供が精神的にも経済的にも自立して豊かな人生が送れるように支援することです。
不登校というとマイナスなイメージがもたれがちですが、子供にとっては、精神的な回復期間や自分を見つめなおす時間というプラスな側面をもつ場合もあります。
そういった一人一人が不登校に対して見出している意味を十分に感じ取りながら、現実問題である社会生活からの疎外、学業の遅れなどに対応していけるよう支援の方策を考えていく必要があるのです。
文部科学省が、平成18年度に不登校経験者379人に対して行ったインタビューでは、不登校に対して「行かないことにも意味があった」という肯定的な回答が32.6%、「行けばよかったと後悔している」という否定的な回答が39.4%、「仕方がない又は考えないようにしている」という中立的な回答が28.1%になっています。
学校でできること
次に、学校でできる支援と取り組まなければならないこと、予防策について紹介していきます。
クラスの環境づくり
一度不登校になってしまった子供が再び学校へ行くということは想像以上に勇気がいるものです。
経験がある方は記憶にあるかもしれませんが、風邪やちょっとした体調不良等で3日以上連続で休むようなことがあると、何となく休み明けの登校がドキドキしたことはないでしょうか?
私は夏休み明けや冬休み明けなど、別に自分に不調はないのに長期の休み明けは妙にドキドキして何となく足取りが重かったことをよく覚えています。
不登校の子供の場合、それが30日以上続いた後でのことですから、なおさら大変なことでしょう。
しかし、迎え入れる学校は再登校をその子と同じように大変なことと捉えてしまうと逆効果になることが多いです。
本人にとって大変なことだからこそ、周りは「見ないで見るフリをする」優しさで迎え入れることが大切です。
この「見ないで見るフリをする」と、「見て見ぬフリをする」は似た言葉ですが、意味は正反対です。
「見ないで見るフリをする」というのは、一見すると気にしていないようでありながらも、しっかりとその子の様子を見取り、いざとなればすぐに対応できるよう心構えをしておく、ということです。
教師の力量が問われるのは、このときのクラスの雰囲気づくりです。
いかに自然体で子供たちが受け入れてあげることができるか、大げさではない、自然体で「待ってたよ。」を伝え合うことのできる雰囲気を作ることができるか。
子供が再び登校してきた後、楽しく学校に通うことができるかどうかは、この環境づくりにかかっているのです。
学校の体制整備
クラスの環境づくりと同じくらい大切なことが、学校全体で支援の体制を整えていくことです。
不登校の子供の指導を一人の担任に全て任せるのでは負担が大きすぎます。
スクールカウンセラーや養護教諭、特別支援コーディネーターを中心として情報を共有し、誰もがその子供に対して理解をもって接することができなければなりません。
また、その子にとって相談しやすい相手を見つけてあげることも大切です。
その相手は必ずしも担任とは限りません。人間同士のやり取りですから、話しやすい相手、話しにくい相手がいることは当たり前です。
その子にとって話しやすい相手を見つけ、その相手とは必要な時にいつでも話を聞いてあげることができるよう、柔軟な体制を整備しておくことが求められます。
未然に防ぐ①:学習支援
ここからは、学校でできる不登校を未然に防ぐための方法です。
不登校になるほんの小さなきっかけとして、「勉強が分からない」というものが圧倒的に多いです。
勉強が分からなくなると授業がつまらなくなり、授業がつまらなくなると学校がつまらなくなる。
こんな負の連鎖にはまっていくうちに、学校へ行くことがしんどくなってしまうのです。
そうならないために、日々の学習を楽しく、分かるものにしていく必要があるでしょう。
また、学習でつまずきが見られる場合には、休み時間や放課後の時間を使って個別で補習できる時間を確保したり、宿題の量や内容を調整したりするなど、その子に合った配慮が必要となります。
一人一人の支援に定評のある先生は、授業で使うプリントも数種類用意しておいて、その子に合ったもので学習できるように工夫しているとのことでした。
常にその準備をしておくことは大変かもしれませんが、特に苦手なところが目立つ学習などでは、上記のような配慮をして授業に臨むことは非常に大切なことだと感じます。
未然に防ぐ②:人間関係
続いて、学習問題と同じかそれ以上に悩むことが多い人間関係の問題についてです。
これは、学年が上がるにつれて問題が深刻化しやすく、顕在化しにくくなります。
学校全体で子供の人間関係の把握に努め、情報共有をしておくことが求められます。
また、必要であれば個別に話を聞いたり、学校内外で連携しながら支援にあたっていくことが求められます。
児童生徒の人間関係等を理解するための手法として、最近はやっている、「Q-U式」というものがあります。
上手に活用することでクラスの人間関係が見えてきますので、集団作りに悩んでいる先生は手に取ってみることをおすすめします。
家庭でできること
続いて、家庭でできる支援について考えていきたいと思います。
不登校の子供が一番長い時間を過ごすのは基本的には「自宅」です。
そうなると、やはり家庭でできる支援は大切になってきます。
家庭で絶対にやってはいけないことは、「無理やり学校に行かせる」ことです。
これをしてしまうと子供の居場所がなくなり、結果的に非行に走ったり、非行グループの仲間入りをしてしまうことにつながります。
不登校状態の改善を目指すためにはどのようなことを意識して関わっていけばいいのか。
やるべきことはここでは紹介しきれません。
子供への接し方への手引きとして、心理カウンセラーの方がまとめたものがありますので以下に紹介させていただきました。
こちらでは、メールカウンセリングも行うことができますので、不登校で悩んでいるご家庭はきっと光を見出すことができるでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
不登校は依然としてその数が増えている深刻な教育問題です。
また、昨今のSNSの普及により今後もその数は増え続けることが危惧されています。
教師・保護者を中心として、子供たちを取り囲む大人が適切な理解と支援の方法を身に付け、少しでも現状が改善していく方向へと進んでいくことを願ってやみません。
参考サイト・資料
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